アクション・インクワイアリーを学ぶ(2)―7つの行動論理<機会獲得型・外交官型>―

※本記事は、チェンジ・エージェント社のウェブサイト「アクション・インクワイアリー特集(1)~(5)」より、当社の許可を得て、を転載しております。


状況判断と行動のパターンをつくりだす「行動論理」

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『アクション・インクワイアリーを学ぶ』特集第1回では、日常のあらゆる場面や仕事場において難しい状況に直面したとき、より冷静に状況判断をする手がかりとして、注意を向けるとよい「4つの体験領域」のつながりについてご紹介しました。目の前で起きた出来事に注意や感情を捉えられてしまったとき、そもそもこの場にいる自身の意図を振り返ることで、ほんとうに自分や相手が望んでいる状態へ向かうための冷静な行動判断ができるということでした。

しかしながら、実際にはどうでしょう。私たちは誰もが、窮地に陥いると、気づかないうちに深い問いをもつ余裕がなくなってしまうのが現状です。その場では一生懸命考えて行動したつもりでも、後から振り返って「ほんとうはもっと、こんな状態を望んでいたのに・・」ということが起こります。どうしてでしょうか? 何が、私たちの冷静な判断を阻んでしまうのでしょう?

主な原因は、人それぞれの思考の癖によって違います。思考の癖とは、自分のこれまでの成功や失敗体験(と、感じた経験)の中から築かれたものです。また、現在自分の身を置いている環境から何を求められているか、ということにも影響を受け、その場に応じて姿を変える事もあります。この思考の癖のことを、ビル・トルバートは「行動論理」と名付けました。現在置かれた状況に対し、次の行動を決めるときに、自分の中でたどる論理のことです。できごとをどのように定義(インプット)し、どのように自分の行動を決定(アウトプット)するか、という一連の論理には、人それぞれにパターンが見られます。

よく見られる行動論理

あるとき、ビル・トルバートがイギリスのあるコンサルティング会社と、こうしたパターンにおける調査・研究を行ったところ、7つの典型的な行動論理があることがわかりました。その中でも特によく見られる4つの行動論理を順に説明しましょう。

一つ目は、インプットとして主に目の前で起きた外の世界での出来事(第一体験領域)に焦点をあて、アウトプットは、ほとんど無自覚に望ましい結果になることを目指すのが「機会獲得型」です。何か自分にとって都合の良さそうな機会を見つけたら、なりふり構わずそれを掴むために行動します。逆に自分の得たい結果が得られそうにないときには見向きもしなかったり、避ける傾向があります。この行動論理のよい面は、新しいことにチャレンジしたり、開拓するときにはとても有効です。一方、悪い面は周囲への配慮がなかったり、深い思慮をしないために、短期的な成果を得られてもその行動の正当性や周囲からの信頼、持続性を犠牲にすることがしばしばあります。フィードバックを極度に嫌ったり、反発して、学習はほとんど起こりません。

二つ目は、インプットとして自身や周囲の人たちの行動(第二体験領域)が既存の規範や慣習に沿っているかに焦点をあて、アウトプットとして規範に同調したり、他社に配慮した行動をとる傾向があるのが「外交官型」の行動論理です。この行動論理のよい面は、集団の和を保ったり、互いへの配慮を促す点です。まさに外交官的に集団内の調整を図る際に力を発揮します。一方、悪い点は、新しい行動や集団で波風が立つような行動はまずとらず、既存の集団の権力構造を人々の面子を守ることに固執することです。行動の体験領域に焦点をあてた部分的に一次ループの学習を行いますが、そうした行動の結果や行動の前提に意識の焦点をあてることはありません。

 自分の行動論理を知ることの意義

どんな人でも、一つだけではなく二つ、三つもしくはそれ以上の行動論理を併せ持っています。状況によって意識・無意識的に使い分けています。しかしながら、誰もが、窮地に追いやられたときにいつも陥ってしまう特定の行動論理があるものです。それは、過去の経験において皆さんの身を危険や失敗から守るのに最も都合がよかった解釈や行動のパターンで、人それぞれに違います。こうした誰もが持っているインプット・アウトプットのパターンをひとつの基準において客観的に評価し、フィードバックをすることで、本人が自発的に自身の成長と向き合い始めるきっかけをつくっています。自分がどんなパターンで思考しがちかをあらかじめ知っていれば、どんな状況でも、その場で自分の注意を意識的に広げる努力ができるからです。そして、より望ましくは、自分が陥るのではなく状況に応じて意識的に選択できる行動論理を広げることができれば、その人の行動はより効果的なものになっていきます。

今回紹介した二つの行動論理は、自ら望んで陥りたくないがいざ難しい環境下に身を置くといつのまにか支配され反応的な行動をとってしまう行動論理でした。次回は、こうした弱点を克服して、自分自身の中に軸をもち自己を主導して、より能動的に一次ループの学習を回し出す次の二つの行動論理である「専門家型」と「達成者型」についてご紹介します。

(つづく)


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